大統領選と為替 トランプ氏なら円安?いや円高? | 藤代 宏一


A:これに対して共通の見方はない。筆者は6月下旬に米国出張の機会を得たため、現地エコノミストや政治に精通した方々にトランプ大統領の為替志向を尋ねたところ、答えは見事に5分5分であった。インフレを抑制するためにドル高を選好するという人もいれば、サプライチェーン再構築にあたって製造業の立て直しが必要となることからドル安を選好するという人もいた。また「為替?いや株価が全て」であるとの回答もあった。また日本に対しては地政学的な重要性が増していることから、極端な円安・円高に陥らないよう米国が配慮するとの声もあった。


筆者が少し不思議に思うのは、米株価が大きくは下がらないことだ。株価はこれまでFRBの利下げ予想を織り込んで上がってきた。ならば、トランプ当選で金融緩和期待は剥落しているのに、なぜ株価は大幅に下がらないのか。これも、ドル高と同じく、潜在的なトランプ・トレードの押し上げ圧力が見た目以上に強いことを示唆している。

加えて、保護主義者であるトランプ氏の「通貨安志向」も見逃せない。前述した通りに関税強化などの施策でインフレ圧力が高まると、FRBは引き締めに動かざるを得ない。為替市場では米金利上昇とドル高が進展するが、トランプ氏がそれを嫌ってFRBに露骨な圧力をかける恐れがある。

トランプ円安が突き進む ~1 ドル160 円を目指す展開~ | 熊野 英生

A:関税は米国内にインフレ圧力をもたらす公算が大きい。前回のトランプ政権時に導入された関税(対中国製品)は人民元の切り下げなどによって相殺されたことから、消費者段階における財価格が顕著に上昇することはなかった。しかしながら、現在掲げられている案(対中関税60%、その他に10%)がそのまま実施された場合、当社の試算によると、米国のインフレ率は+0.1~0.3%pt加速することになる。多くの米国民にとってインフレからの救済が最大の関心事となるなか、インフレを加速させる政策は受け入れ難いものになるだろう。そこでインフレ抑制の観点からトランプ大統領がドル高を選好する可能性がある。こうした前提に基づくと、関税設定は「インフレ加速→引き締め的な金融政策→米金利上昇→ドル高(円安)」という帰結になるのではないか。

ただ、投資対象として考えた場合、ここからのドル買い円売りはかなりリスクが高い。輸入物価への影響などもあり、財務省など日本の通貨当局は為替介入などで円安を抑えにかかるだろう。トランプ次期大統領が米製造業のためにドル安を志向しており、介入が入りやすくなっているという見方もある。

A:CBOの試算によると、移民流入数は2023年と2024年にそれぞれ年間330万人程度となった後、2025年以降は漸減し、当社試算によれば2027年には110万人程度になる。また当社は、トランプ政権が移民抑制に動いた場合、2027年における移民の純流入は+50万人と第一次トランプ政権(2019年:+42万人)と同程度まで低下すると試算している。さて、こうした移民の減少が為替にどういった経路を通じて波及してくるのだろうか?その点、筆者は「安価な労働力」という視点に重きを置いている。現在も続くインフレの根幹にあるのは、人手不足に起因する労働コストの高止まりであるが、それを快方に向かわせているのは移民という労働力である。すなわち移民の流入は労働市場の逼迫を和らげ、賃金上昇圧力を減じ、インフレ沈静化に貢献していると考えられる。したがって、移民制限は「労働供給の減少→賃金上昇→インフレ再加速→引き締め的な金融政策の長期化→米金利上昇→ドル高(円安)」という結果をもたらす可能性が高い。もっとも、筆者はこうした予測に強い自信を持っている訳ではない。というのも、移民は消費(含む住宅)の拡大を通じてインフレ圧力をもたらすとの見方もあるためだ。移民が制限されれば、総需要が減少したり、住宅価格上昇が一服したりするなどして、インフレ圧力が後退する可能性もある。その場合、Fedは利下げを進め、ドル安(円高)が進行する可能性もある。

日本は良くも悪くも対米追従な側面が強いため、EUほどトランプ元大統領による圧力には晒されないだろう。ただし、トランプ元大統領は、貿易赤字を削減する魂胆から、基本的に「弱いドル」を志向する。トランプ大統領が日本の円安に対して批判を強めた場合、それを起点に投機的な「円売り圧力が逆転」する可能性(=円高に振れる可能性)には配慮した方がいいだろう。


【おはBiz解説】アメリカ大統領選挙 日本経済にどんな影響が? | NHK

1-4のいずれも、5番目のインフレ低下とは相いれない。全ての条件が同じであれば、共和党の政策綱領はインフレ押し上げ策の羅列だ。関税や財政拡大は金利も押し上げ、ドル上昇に寄与するだろう。キャピタル・エコノミクスの副マーケッツエコノミストのジョナス・ゴルターマン氏は、「トランプ氏の問題はドル安を望みつつ、やりたい政策は多かれ少なかれ全てドル高に働くということだ」と指摘。「やりたいことをただ口に出して、自動的に実現するだろうと考えるのは大間違いだ。それが問題の核心だ」と語った。

【NHK】アメリカ大統領選挙でABCテレビは共和党のトランプ前大統領の当選が確実になったと伝えました。日本経済への影響はどんなこと…

A:飽くまで筆者の感覚であるが、現時点ではFedを罵るように批判している様子はない。もっとも、トランプ氏が政権を奪還すれば、景気浮揚のために利下げを要求する可能性はあるだろう。本稿における前提に基づけば、「利下げ→日米金利差縮小→ドル安(円高)」であるが、実際にはもっと複雑な考察が必要になりそうだ。ここで米金利のイールドカーブを考えると、利下げ要求はカーブの手前(短期~中期)に下方圧力をかけるものの、長期ゾーンは景気・インフレ再加速が織り込まれ、寧ろ長期金利が上昇する可能性もある。いわゆるトランプ減税による財政収支の悪化懸念も相俟ってイールドカーブがツイスト・スティープ化しても全く不思議ではない。そう考えると「利下げ→日米金利差縮小→ドル安(円高)」という単純な結論には距離を置きたいところだ。前回のトランプ政権時は政策金利が最大でも2.5%であり、利下げ余地は限定的であったが、今回は最大で5%超の利下げ幅があるため、利下げ要求が大きな波乱に繋がり得る。